p.5 | 公開日:2026/8/21
5. ローレンツ対称性
<p>第2章から前章にかけては、3次元のベクトル$\mathbf{A}(\mathbf{x},t)$やスカラー$\phi (\mathbf{x},t)$を用いて、古典電磁気学のゲージ対称性と、クーロンゲージ・ローレンツゲージという2つの具体的なゲージの取り方をみてきました。
この章では、これらを4元ベクトルによる明白にローレンツ共変な形に書き直し、電磁気学が特殊相対論の対称性(ローレンツ対称性)とどのように整合しているかを整理します。</p>
<p>以下では、計量テンソルとして$\eta ^{\mu \nu }=\mathrm{diag}(1,-1,-1,-1)$の符号規約を採用し、時空点の座標を$x^\mu =(ct,\mathbf{x})$とします。
このとき微分演算子は
\begin{align}
\partial _\mu &= \frac{\partial }{\partial x^\mu } =\left(\frac{1}{c}\partial _t, \nabla \right) \\
\partial ^\mu &=\eta ^{\mu \nu }\partial _\nu = \frac{\partial }{\partial x _\mu }=\left(\frac{1}{c}\partial _t,-\nabla \right) \label{eq:differential-operator}
\end{align}
となります。ここで$\partial _t := \frac{\partial}{\partial t}$です。</p>
<h2>5.1 4元ポテンシャルとローレンツ共変性</h2>
<p>スカラーポテンシャル$\phi $とベクトルポテンシャル$\mathbf{A}$は、独立な物理量ではなく、1つの4元ベクトル
\begin{equation}
A^\mu (x)=\Bigl( \frac{\phi (x)}{c},\mathbf{A}(x) \Bigr) \label{eq:four-vector-potential}
\end{equation}
の時間成分・空間成分としてまとめて扱うことができます。
ここで$\phi /c$としているのは、時間成分と空間成分の次元(単位)を揃えるためです。</p>
<p>ゲージ変換(\ref{eq:gauge-transform})を4元的に表すため、$\Lambda (x)=-u(\mathbf{x},t)$とおくと、実際に
\begin{equation}
A^\mu (x) \rightarrow A'^\mu (x)=A^\mu (x)+\partial ^\mu \Lambda (x) \label{eq:four-vector-gauge-transform}
\end{equation}
の時間成分は$\phi '=\phi -\partial _t u$、空間成分は$\mathbf{A}'=\mathbf{A}+\mathrm{grad}\, u$となり、(\ref{eq:gauge-transform})と一致することが確かめられます。</p>
<p>つまり(\ref{eq:gauge-transform})は、1本の共変な式にまとめられます。
ここで$\Lambda (x)$はローレンツ変換のもとでスカラーとして振る舞う任意関数です。
ゲージ変換のパラメータ自身がスカラーであるため、この変換はどの慣性系で行っても同じ結果を与えます。
すなわち、「ゲージ対称性」と「ローレンツ対称性」とは互いに独立な対称性でありながら、両立する形で電磁気学に組み込まれているということです。</p>
<h2>5.2 ローレンツゲージの相対論的な意味</h2>
<p>ローレンツ条件(\ref{eq:lorenz-condition})は、4元発散の形で
\begin{equation*}
\partial _\mu A^\mu (x)=0
\end{equation*}
と書き直せます。</p>
<p>実際、
\begin{equation*}
\partial _\mu A^\mu =\frac{1}{c}\partial _t\Bigl(\frac{\phi }{c}\Bigr)+\nabla \cdot \mathbf{A}=\frac{1}{c^2}\partial _t\phi +\mathrm{div}\, \mathbf{A}
\end{equation*}
であり、(\ref{eq:lorenz-condition})の左辺に一致します。
左辺の$\partial _\mu A^\mu $はローレンツスカラーであるため、この条件はある慣性系で成り立てば、ローレンツ変換で移ったどの慣性系でも成り立ちます。</p>
<p>つまりローレンツゲージは「ローレンツ共変なゲージ固定条件」であり、これが第4章でローレンツゲージを用いると方程式が4個の独立な波動方程式(\ref{eq:wave-eqs-lorenz-gauge})にきれいに分離できた理由でもあります。
これに対し、クーロンゲージの条件$\mathrm{div}\,\mathbf{A}=0$は空間成分のみの条件であるため、ある慣性系でこの条件を満たすように$\mathbf{A}$を選んでも、別の慣性系に移るとその条件は一般に破れてしまいます。
次章以降でローレンツゲージを用いるのは、このローレンツ共変性を明白な形で保つためです。</p>
<h2>5.3 電磁場テンソルとE, Bの相対性</h2>
<p>電場$\mathbf{E}$と磁場$\mathbf{B}$も、独立な3次元ベクトルではなく、反対称な4元テンソル
\begin{equation*}
F^{\mu \nu }(x)=\partial ^\mu A^\nu (x)-\partial ^\nu A^\mu (x)
\end{equation*}
の成分としてまとめられます(第6章式(\ref{eq:emf-tensor})で改めて詳しく扱います)。
$F^{\mu \nu }$がローレンツテンソルとして共変的に変換することから、$\mathbf{E}$と$\mathbf{B}$はそれぞれ単独では慣性系によらない量ではなく、観測者の運動状態(慣性系)に応じて互いに混ざり合うことが従います。</p>
<p>たとえば、ある慣性系で純粋に静電場($\mathbf{B}=0$)であっても、別の慣性系から見ると磁場成分が現れます。
これは電場と磁場が本来1つの実体(電磁場)の異なる側面に過ぎないことを意味しており、特殊相対論なしには電磁気学を正しく理解できないことを端的に示しています。</p>
<p>以上のように、ゲージ場$A^\mu $、ゲージ変換のパラメータ$\Lambda (x)$、場の強さ$F^{\mu \nu }$は、いずれも特殊相対論の枠組みの中で自然に4元的な対象として定義されます。</p>
<p>次章では、この相対論的な枠組みの上でマクスウェルの方程式を明白にローレンツ共変な形に書き直します。</p>